風の狩人


第1楽章 風の紋章

2 光のタクト



2時間目は、結城の音楽の授業だった。10月に行われる校内音楽コンクールに向け、合唱のパート練習が今回の課題だった。龍一はテノールに属していた。が、彼一人、皆とやや離れた隅にいて、誰とも視線を交わさなかった。皆が談笑している時でさえ、龍一だけは加わらない。壁際で目立たない生徒と言ってしまえばそれまでだが、結城は何となく気になった。
(いじめがあるのかもしれない)
優等生ゆえにいじめのターゲットにされる事もある。風見は性格も大人しそうだから、その可能性は高いだろう。結城は、慎重に観察する事にした。
そして、結城が見ている限り、龍一は誰とも口を利かなかった。また、誰も彼に話しかける者もいなかった。

そして、授業が終わり、結城が廊下に出た時だった。
「先生」
と、背後から呼び止められた。振り向くと、おずおずとした様子で龍一が立っていた。
「何か用?」
と、後戻りして言う。
「あの、どうも、ありがとうございました」
そう言って、龍一は軽く頭を下げた。
「えーと。僕、君にお礼を言われるような事したかな?」
結城がその瞳を覗き込もうとすると、少年は視線を逸らした。そして俯き加減に言った。
「今朝、ぼくの友達を助けてくれました」
「友達?」
「はい。D組の藤沢健悟です」
「ああ、サッカー部の? でも、あれは、僕が助けた訳じゃないよ。本当に運がよかったんだ。無事でよかったね」
と言って、結城は微笑んだ。
「君は、やさしいんだね」
「そんな事ありません。ぼくは……」
言いかけて、龍一は下を向いた。

「藤沢君とは、ずっと友達なの?」
「はい……。えーと、あの、すみません。次、体育の授業ですので……」
そう言って、急いで立ち去ろうとする龍一を結城が止めた。
「ちょっと待って。C組は、確か次、変更になっていた筈だよ」
「え?」
と、驚いたように見上げる龍一の視線を受けながら、結城はメモをめくった。
「ああ。やっぱりそうだ。3時間目は、体育から数学に変更になっている。知らなかったの?」
龍一は頷き、
「ありがとうございました」
と言った。が、明らかに動揺しているのが見て取れた。
「風見……」
と、結城はそっと龍一の肩に手を置いて言った。
「もし、何か話したい事があるなら、いつでもおいで。僕でよければ相談にのるよ」
言われて、龍一は一瞬顔を上げた。その瞳に微かに安堵の色が浮かんだ。
が、次の瞬間。畏怖にも似た恐怖が彼の瞳に閃いた。
「風見……?」
結城は、龍一の視線を追って振り向いた。窓の向こう。空の片隅に、闇が渦巻いていた。災いを運ぶ風――。
(何故だ?)
結城は驚愕した。闇の風が同じ日、同じ場所に現れる可能性はきわめて低い。しかも、今、目の前にある風は、朝のものとはちがう。何故なら、あの風は、結城自身の力で浄化させたからだ。そして、もう一つ――。
「風見……!」
結城がもう一度振り向いた時、少年は彼の手から逃れるようにパッと駆け出していた。そして、あっと言う間に目の前の階段を駆け下りて行く。
(あの子には、見えたのだろうか? あの闇のエネルギーを持つ風が……。だとしたら……)

職員室に戻った結城は、心に引っ掛かるものを感じつつも、授業で使う資料をコピーしていた。
「あれ? 結城先生。どうかしたんですか? 冴えない顔しちゃって」
と、1年C組の担任の坂口が尋ねた。
「あ、いえ。ただ、ちょっと気になる生徒がいまして……」
「気になる生徒?」
問われて、結城はほんの少し躊躇してから応えた。
「実は、先生のクラスの風見龍一の事なんですが……」
「ああ。あの子ね。礼儀正しいし、いい子ですよ。ただ……」
と、坂口は急に言葉を濁した。
「やはり、何かあるんですか? さっきも授業が変更になった事知らなかったようですし。何かこう、クラスでも浮いてるような……」
と、結城は刷り上ったばかりの資料を揃えて手を止めた。

「ええ。本人は成績優秀、品行方正のいい子ですし。家庭にも特に問題はないんですがね。まあ、大人し過ぎると言うか。なかなかクラスに馴染めなくて。初めは、私もいじめがあるんじゃないかと思いましてね。本人にも訊いてみたんですが、どうも、風見本人がみんなを避けてる。この間のグループ学習の時にも、うまく溶け込めませんでね。ほとほと困ってしまいましたよ」
と言って坂口は苦笑した。
「そうですか」
と頷いて、結城は少し考え込んだ。
(人と交わる事が出来ない。あの事が何らかの原因になっているのだろうか?)
「でも、彼には確か友人がいましたね? D組の藤沢と親しいようですけど」
「ああ。確か家が近いんですよ。幼馴染みだとか。だけど、彼だけですね。風見が話をするのは」
と、坂口はため息混じりに言った。

その時。
「結城先生。お電話です」
と、事務の丸山が呼んだ。

「はい。結城ですが」
と、受話器を取ったが、相手は無言だった。
「もしもし? お電話代わりました。結城ですけど」
と繰り返す。すると、ようやく受話器の向こうから相手の声が流れて来た。
――ああ。直人か? おれだよ。おれ。覚えてるだろう? 久し振りだな
聞き覚えのある声だった。
「……浅倉」
結城は搾り出すように言った。
――ああ。覚えててくれてうれしいよ。まあ、おれ達、親友だもんな。覚えてて当然だよな
そう言って、浅倉は低く笑った。

「親友? 勘違いするなよ。かつての、だろ? 今さら何の用だ?」
自然と声が固くなる。
――ふふふ。冷たい事言うなよ。せっかくドイツからわざわざ日本まで訪ねて来たんだからさ
「もう、決着はついたはずだろう?」
――おれの中ではちっともついていないんでね。これから、会いに行くよ。いいだろ?
「断る。今は勤務中なんだ」
どうして、ここがわかったのか。そして、何故、今になってわざわざ職場にまで電話して来たのか。浅倉の意図が理解できなかった。

――でも、もう逃れられないよ。直人。もう、先人が挨拶に行ったろう? 君は随分いいもてなしをしてくれたみたいだけど
「先人……?」
――そうさ。これから、また送るよ。君の大切なものを奪うために
「どういう事だ?」
――だって、ずるいじゃないか。君だけがそうやって平和に暮らしているなんて。君は、もう知ってしまったのだから
そう言って、電話の向こうの男は嘲るように笑った。
「何をする気だ?」
結城の声が鋭くなった。が、相手は受話器の向こうで笑い続け、問いには一切応えなかった。
「浅倉!」
が、応答はなく、通話が切れた。
(浅倉が日本へ? あの闇の風はあいつが送り込んだものだったのか? でも、何のために……? 浅倉は、闇の風使い。このままでは大変な事になる。被害が出る前に、奴と決着をつけなければ……)
結城は思案しつつ受話器を置いた。

 始業のベルが鳴った。が、数式はまるで頭に入らなかった。龍一は、ただひたすらに心を頑なにする事だけを考えた。
(何も見なかった事にしよう。そうすれば、何も恐れる事はない)
龍一は、両手でしっかりと耳を覆い、瞳を閉じた。
(これでもう、ぼくは何も聞こえない。何も見えない。たとえ、何が起ころうと)
しかし、心は次々といやな記憶を呼び覚ました。

――みんな、逃げて! 早く逃げて!
小学生の龍一が叫んでいた。
――何言ってんだよ? 龍一
――何で逃げなきゃなんないのさ?
ジャングルジムの上から守と拓馬が不満そうに言った。
――いいから。早く! 早く下りて来て! ぼくには、あれが見えるんだ。ここにいちゃいけないんだ。きっと怖い事が起きるよ。ぼくにはわかるんだ。だから、早く……!
しかし、彼らは信じなかった。
――バッカじゃねえの? ここ、公園だぜ。何も怖い事なんか起きねえよ
2人はけらけらと笑った。彼らには背後に迫っている闇が見えていなかった。
心の中で繰り返される会話。
次の瞬間。巨大な闇は、突然、牙を剥いた。記憶のローブを食いちぎり、飛び出したトラックが視界を覆う。悲鳴のような急ブレーキが響き、目の前で何もかもが壊れて行った。なぎ倒された柵。花壇と植え込みが滅茶苦茶に壊れ、遊具はひしゃげ、人が、積み荷が散乱していた。遠くで救急車のサイレンが鳴っている……。

(やめろ!)
龍一は、そんな過去の呪縛を断ち切るように無理矢理目を開けた。
(誰もぼくを信じてくれなかった。誰も……)
それは、もう5年以上も前。心の奥にずっと封じ込めていた記憶の欠片だった。飲酒運転のトラックが暴走し、公園の柵を乗り越えて横転。遊んでいた小学生2人が犠牲になった。龍一だけが、その一部始終の目撃者だった。無論、悪いのは運転手であり、幼い龍一には何の責任もない。ところが、亡くなった子供の一人が、「龍一が……」と言い残したものだから、龍一のせいでその子が事故に合ったと誤解されてしまった。しかも、悪い事に、その日、公園に行こうと誘ったのは龍一だった。結果、亡くなった子供の両親は、遊びに出した事を後悔し、怒りと悲しみの矛先は、一人生き残った幼い龍一にさえ向けられた。

――何故、家の子を誘ったの?
――あなたが遊びに行こうなんて来なければ……!
――どうしていっしょにいたのに、あなただけが無事だったの?
――どうして……!

(それから、みんな、ぼくを見る目が変わってしまった。まるで、ぼくが殺したみたいに……冷たい目)
そして、誰も彼に近づかなくなった。誰も何も言わなくなった。しかし、その冷たい目が言っている。

――おまえが殺した!

のだと――。

――ちがう。ぼくじゃない。ぼくは助けようとしたんだ。助けようとしたのに……!

幼い自分が泣いていた。ずっと暗闇の中で……。だが、そんな自分自身でさえ、龍一は救ってやる事が出来なかった。
「ごめんね……」
(だから、ずっとぼくは闇の中でうずくまったままでいる)

みんなが彼から遠ざかって行く中で、健悟だけが彼の側にいてくれた。
(だから、健悟だけは守ってやりたいんだ。なのに、何故……? ぼくは怖いんだ。あの闇の風が……。あの風が現れた後には、必ず恐ろしい事が起きる)
龍一は、それを何度も見て来た。
(だから、絶対だ。さっき見たあれは、間違いなく災いを起こす闇の風だった。なら、この学校で何かが起きるという事だ。早くみんなに知らせなければ危険だ)
が、龍一には、それが出来なかった。
(どうして……! ぼくには見えてしまうの? どうして……?)
時が刻々と流れて行く。あの秒針がどこを指した時、魔のタイムリミットは訪れるのだろうか。龍一の心は底知れぬ不安に慄いていた。

「風見」
と、数学の伊藤が彼を指名した。
「はい」
龍一はよろよろと立ち上がり、黒板を見た。2人の生徒が既に、チョークで数式を書き始めている。
「じゃあ、出て来て、問い3の問題を」
と伊藤が言った。
「はい」
そう言って龍一は前に出ようとして教科書を取り落とした。
「あ……」
慌てて本を拾ったが、ひどい眩暈を感じた。

「先生。あの、すみません。保健室に行ってもいいですか?」
と言った。
「ああ。顔色が悪いな。どうした?」
「少し気分が悪くて、頭痛が……」
「よし。誰か付いて行ってあげなさい」
と伊藤は言ったが、クラスはしんと静まり返っている。
「あの、ぼく、一人で大丈夫ですから……。授業を続けてください」
と言って、龍一は教室を出た。
「そうか? じゃあ、大事にな」
と、伊藤がドアまで来て言った。
「あの、先生……」
言いかけて、龍一は口を噤んだ。怪訝そうな伊藤に会釈して、そっと扉を閉めた。そして、ゆっくりと廊下を歩き出す。

D組は誰もいなかった。きっと移動教室なのだろう。
(健悟……)
彼だけが側にいてくれた。何も言わず、ずっと泣いてる龍一の側に。

そして、ある日。

――これ

そう言って右手を出した。その手には、小さな砂時計が乗っていた。円形の星。

――永遠の砂時計さ。おまえにやるよ。おれの宝物だったんだけどさ。これ見てるといやな事忘れられるから。おまえにやる

そう言って、龍一の手に押しつけると、駆けて行った。
永遠の砂時計……。
神秘的なその砂の流れを見ていると、確かに心にある硬いしこりが解けて行くような気がした。永遠の砂時計。それは、今も龍一のポケットの中にある。そうして、友情の砂は、今も途切れる事なくさらさらと流れ続けている。

そうして、龍一がぼんやりとした頭で階段を降り、2階の特別教室へと続く通路を歩いていると、向こうから、見知らぬ男が歩いて来た。通路の両側には大き目の窓が並び、燦々と陽光が降り注いでいる。その窓枠と男の影が斜めに長く延びていた。と、不意に、その影が動いた。
「え?」
驚いて目を見開く龍一。影は伸縮し、膨張しながら奇怪な生き物のように浮かび上がった。
「な……!」
一瞬、我が目を疑い、龍一は何度も瞬きした。が、それは、紛れもなく自分の目の前にいる男から派生しているものなのだ。あまりの恐怖と威圧感に足が竦んだ。

「見えるのかい?」
男が言った。

そして、まるで、珍しい生き物でも観察するような目で、龍一を眺め回した。微かに笑んだ口元。だが、男の周りには冷たい闇の風がたち込めている。ゆっくりと男が近づいて来た。
「いやだ……!」
龍一は、何とか後退ろうともがくが、闇の記憶が彼を捕らえて放さない。遠い風の記憶。その闇の鎖が幾重にも絡んで過去の呪縛へ引きずり込もうとした。そうして、闇は変化し、やがて、形を成した。バックミラーに邪悪な光を閃めかせて、闇のトラックが彼をめがけて突進して来る。が、龍一は動けない。
――駄目だ。轢かれる……!
そう思った瞬間。視界から闇が消えた。陽光。そして、男の香水の匂い。
「素敵だ」
そう言って、男は顔を輝かせた。
「君が持つ闇の記憶。もらったよ。その風の記憶を」

そう言うと、男は両手を広げた。見る間に闇が舞い、濁流のように渦巻いた風が2人を囲む。と、闇は鋭利な漆黒の翼となって窓を突き破った。四散したガラス片が、さらなる闇の風に乗り、龍一を襲う。
「うわっ!」
咄嗟に両腕を前に出し頭部を庇った。
「ごめんね。けど、見えるだけじゃ駄目なんだ。扱えないと……。教えて欲しいかい?」
無邪気な調子で男は言った。
「だったら、おれと遊ぼうよ」
そして、右手をかざすと中空で円を描き、振り下ろす。闇とガラスの欠片の竜巻が龍一を掬い、窓から突き落とそうとした。

と、その時。
「浅倉!」
不意に風の流れが変わった。生気を失ったようにガラス片が落下して行く。呪縛が解けて、龍一が振り向くと、そこには結城が立っていた。
「結城先生……?」
結城は、その手に光のタクトを持っていた。それが、鮮やかに閃いて、結城の体は淡い光に包まれているように見えた。あるいは、射し込む陽光に照らされて、そんな風に見えただけかもしれないが……。

「そこで何をしている?」
鋭い口調で結城は言った。
「何って。この子と話をしていただけだよ。ねえ、君」
と、男は龍一の肩に手を掛けた。龍一は、反射的に身を固くした。
「その子から離れろ」
が、浅倉は、抗しきれない龍一の肩を抱いて不敵に笑う。
「いやだ、と言ったら?」
「貴様……!」
緊張が走った。睨み合う2人。時が止まり、ふっと浅倉が息を吐いた。
「そんなにこの子が大事?」
「僕の生徒だ。手を出したら許さない……!」

一瞬の後、浅倉はクククと笑い出した。
「変わってないなあ、おまえは。いつだって、目の前にあるものを全力で守ろうとする。その一途さに、ナザリーも惚れたのかな?」
「放せと言ってるんだ……!」
タクトを持つ手が微かに震える。
「そんなに欲しい? ただ、見えるだけしか能力のないこの子が?」
「能力なんて関係ないさ。人は皆、生きて幸せになる権利があるんだ。それを邪魔することは許さない。負の風を招くおまえによってなら尚更だ」
「ははは。ヒーローのつもりかい? けれど、君は正義の味方にはなれないよ。直人。君の詰めは、いつも甘すぎるのさ!」

瞬間。龍一の体が宙を舞い、闇の刃が鋭く迫った。
「う……!」
「やめろ!」
再び舞い上がるガラス片と闇の風が吹き荒れる。タクトの強烈な光が闇を砕き、意識を失った龍一を受け止め、結城は再びタクトを振った。光の共鳴によって闇を沈め、その矛先を浅倉に向ける。男は窓から飛び降りようとしていた。
「待て!」
結城は渾身の力で風の弓を引き、男の背中を射貫こうと身構えた。全身が白熱しているのを感じる。浅倉が振り向いた。
(今だ。今なら、奴に止めがさせる……!)
凄まじい光と風の衝撃が広がった。
「やったのか……?」
が、そうではない事を結城自身も承知していた。一瞬の躊躇が奴に逃げる隙を与えたのだという事を――。
「詰めが甘い……か」

結城は、龍一の体を静かに抱え直した。そこへ、靴音がして、何人かの教師が駆けつけて来た。教頭の岡本と厚井、それに若井の三人だ。
「結城先生!」
「どうしました? これは、一体……?」
結城は割れた窓ガラスの方を指して言った。
「不審者が……」
散乱したガラスと龍一の様子を見て、教頭の岡本がオロオロして言った。
「ああ、若井先生、すぐに職員室に戻って救急車を。それと、警察へも通報して。結城先生はその子を見ててください。それで、犯人は窓から逃げたんですね?」
それを聞いて、振り向くと若井は職員室へ、厚井は既に犯人を追って駆け出していた。岡本もすぐに後を追って階段に向かった。

――ふふ。もう遅いよ。闇の風は放たれた

「何……?」
風の声が聞こえた。
「何処だ」
と、その時。凄まじい音と衝撃が伝わった。
「一体、何が……?」
結城がそっと龍一を床に下ろし、窓から覗くと大型トラックが正門を突き破り、校舎へ突っ込んでいた。よじれたフェンスが車体に引っ掛かったままへばりつき、積荷と砕けたコンクリートの塊が散乱している。煙が辺りを包み、その周囲を闇の風が取り巻いていた。その風の中で浅倉が笑っている。
「何てことを……!」
結城は一瞬目を伏せた。が、ガソリンの匂いに気がついてもう一度下を見た。ひしゃげた車体の隙間から、液体が漏れていた。そして、上空を漂う闇。災いを呼ぶ闇の記憶を持った風――。
「しまった!」
結城は慌ててタクトを振った。一瞬にして闇は光に囚われ消えた。が、遅かった……。トラックは派手に爆発し、凄まじい勢いで炎上した。